【 小説・The・吉右衛門 】〜サオリという少女〜

【 小説・The・吉右衛門 】〜サオリという少女〜

僕が拾ったのは人間だった。

先日、「弁当の日」の講演を聞き、そこで先生の販売している本を一冊買った。

「ここ」

という本だ。

内容は、子供達の「性」についてである。
そして、この「性」の問題は、年々深刻化していて、それに対する講演や指導をしている産婦人科医の女性の先生の書いた本であった。

これを読んで、忘れていた20年前の記憶を、鮮明に思い出した。

その日の歌舞伎町は、朝からうだるような暑さだった。

店から出た僕は、その眩しさと暑さと、歌舞伎町の持つ欲望の果ての匂いのせいで、先ほどまで嫌というぐらい飲まされたブランデーが、また胃からこみ上げてくるのを感じた。

自分の客が、この日は珍しく悪酔いし、執拗に僕に絡んでくる。

「メンドクセーナ・・・・コイツ」

と本気で思っていたが、自分の客の中ではAクラスの客だったため、キレることもままならず、なんとか空かし、たしなめ、とにかく手を焼いていた。

機嫌を直すのは僕の仕事でもあるし、この場を収めるもの僕の仕事だ。

結局、

「お前もスカしてねーで、飲め!私の酒が飲めないの!?」

ということで、シャンパンじゃーつまらない。
ブランデーもってこい!!

と、ブランデーを入れたのだ。

このままじゃ済まさねーと思った僕も、ブランデーは「カミュ」を入れてやった。

あれは一本何万円だったか?何十万だったか。

そんなことは忘れてしまったが、それを、とにかく飲まされまくった。

ようやく客を返すと、こんな日は、とにかく早く店を出くなる。

気持ち悪いわ、気分悪いわ。

すぐに店を出ても、朝の6時。

でも、なぜかこのまま直接家に帰る気にはなれないのが、当時の僕であった。

こんな時は、全く自分の仕事と関係ない、客にする気もない、道端でキャッチしている間に知り合ったり出会ったりする、何十人もの女の中から、ピンときた女に電話して、タイミングが合えば、その女の部屋に転がり込む。

その日は、どうしてもそういった女の部屋に転がり込んで、ただただ泥のように眠りたい気分だった。

その女はサエといった。
中野に住んでいるという。

タイミングがあったわけだ。

新宿から近い。

これは絶好の女だと、いくらか気分も上がり、中央線に乗り込んだ。

中野駅北口を出て、立ち食いそば屋のはなつ香ばしい醤油の匂いに、胸焼けも少しは和らいだが、それを横目に見て、すぐに中野ブロードウェイに入る。

サエのマンションは早稲田通りにあるという。

このままブロードウェイを通っていく方が、痛い日差しから逃れられる。

通りを歩いて5.60mも入るとマクドナルドがある。

その前に積んであるマックのゴミ溜めの前に、女が一人膝を抱えて、座り込んでいる。

中野だからな。まぁ良くあることだ。

と、普通なら無視して通り過ぎるはずだった。

が・・・・

裸足??

そして、目が合ってしまった。

見下ろす僕。

見上げる女。

ふと、

「お前、なんで裸足なの?」

「・・・・・・ボソボソボソ・・・」

「え?ナニ?」

「・・・ほっとけクズ」

「あ?クズ?俺?・・・・・」

その女は見事に僕のことを言い当てたように思った。

そう思ったら、めちゃくちゃ楽しくなってきた。

「よし!お前、俺と一緒に来い。」

無視する彼女の腕を掴んで、無理やり立たせ、そのまま来た道を引き返す。

駅前のロータリーでタクシーを拾うと、そのまま、また歌舞伎町へ戻った。

行き先はラブホテルだ。

タクシーに乗るまでは、少し抵抗していたその女も、歌舞伎町についたときにはもう、特に抵抗もなく、言われたまま着いて来ていた。

部屋に入ると、ラブホテル特有の匂いが僕を冷静にさせた。

よくよくその女を見ると、随分と若い。しかも可愛らしい顔をしている。

見る感じ、まだ学生。
しかも高校生ぐらいじゃないかと思われた。

僕は余計なことは何も言わず、

「お前、臭いぞ。風呂に入ってこいよ。」

と言うと、これまた素直に黙って、シャワーを浴びに行った。

中野のサエのことなど、もはや、どーでもよかった。

その女、いや、少女が風呂から上がるまで、状況をよく整理してみた。

「俺は一体何やってるんだ?」

と。

「まぁ、いいか。どうせ家出少女か何かだ。何とでもなる」

そう思っていると、少女が風呂から出てきた。

僕も、気候のせいだけじゃないベタつきを洗い流したくて、そのまま、財布も何もかもそこに置き、シャワーを浴びた。

別段、金が盗まれてもいいと、その時は思った。

シャワーを浴びて、部屋に戻る時も、なぜか僕はワクワクしていた。

「さて、いるかな?もういないかな?」と。

部屋の扉を開けると、少女は居た。

しかも、ベットで、すやすやと眠っている。

暖簾に腕押し、糠に釘とはこのことだ。

「この女。何考えてるんだ?全く意味不明だな」

と思いながら、その寝顔を見ると・・・

不思議なものだ。

寝顔はヤバイ。
寝顔は見ちゃダメだ。

なんとも愛らしい、どうにもこうにも自分で自分がわからなくなるような、変な愛情のようなものが湧いてくるのを感じた。

その時、猛烈な睡魔が襲ってきた。

一気に何か緊張の糸が緩んだのか、何なのか。

名前も年齢も何も知らない中野ブロードウェイで拾った少女と、一緒に熟睡するとは、夢にも思っていなかったからである。

何時間眠っただろう。
突然不安に襲われ、飛び起きるように起きると、夕方の4時である。

隣を見ると、少女はまだ寝ている。

俺は何だかアホらしくなって、笑いがこみ上げてきた。

もう、こいつをこの場で抱こうとか、やってやろうなんて気持ちは微塵もなかった。

とにかく、もうそろそろ、家に帰って、仕事の支度をして出かけなきゃならない時間だ。

とにかく、こいつを起こそう。

体を揺すって起こす。

なかなか起きない。

が、無理やり起こし、ホテルを後にする。

そうだ。

こいつ、裸足だったんだ・・・

「おい。いまから、靴買いに行くぞ」

と、いい、ホテルのスリッパを黙って履いて、外に出る。

近くの靴屋に行く。

少女は、適当に選ぶものとばかり思っていたが、選ぶのは真剣だった。

あれこれ迷って、一足のサンダルに決めた。

もちろん、そいつは金は持っていない。

自動的に俺が買ってやることになるのだが、それは別にどうでもよかった。

なんか、靴ぐらいあげたい気持ちになっていた。

その時初めて、

「お前、名前は?名前ぐらい聞かせろよ。」

「・・・サオリ・・です。」

「今、いくつ?」

「17」

やっぱりな。

女子高生じゃねーか。

「俺、このまま家帰るから、お前、サオリちゃんは家どこ?中野?電車賃ある?」

終始、ボソボソ話すサオリだったが、この時ばかりははっきりと、しかも熱がこもったような口調で

「家はあるけど家はないです。」

といった。

ここで、僕の中の危険シグナルが頭の中で鳴り響いた。

あとは関わるな!面倒に巻き込まれるぞ!

と。

そうだそうだ。

こんな女子高生の家出少女にかまっていたら、俺が捕まるかもしれない。

現に、この時の歌舞伎町や世の中というのは、女子高生ブームだった。

ブルセラ・デートクラブ・援助交際。

街には、そんな女子高生が掃いて捨てるほどいたのだ。

それをカモにして、店に呼ぶホストも現れ、それが行きすぎて、警察に検挙された同業も何人もいた。

そうだ、そうだ。

こういうのには関わらないことだ。

そう思って、すぐに、

「あっそう。じゃあ、俺仕事があるから行くわ。じゃあね。」

と、颯爽とその場を立ち去った。

そのまままっすぐ駅に向かうだけだった。

途中で、

「〇〇くん!(僕の呼び名)どーしたの〜〜そんなに急いで!」

と、呼び止められた。

デートクラブのキャッチをしているカツヤだった。

「いや、帰るとこだからな」

「それよりどう?店?いい感じなの?」

「ぼちぼちだよ。お前は?」

「最近、警察厳しくってさ。女の子なかなか入らないのよ。また客にならない学生紹介してよ〜!バックはずむからさ!」

「・・・んん。おっけ!わかった」

何気ないいつもの歌舞伎町キャッチ仲間の会話だった。

いつもなら、ここから話は弾むはずだった。

でも、その時は違った。

カツヤをそのまま置き去りにして、さっきの靴屋に小走りに戻っている自分がいた。

頭の中では

「やめろ!関わるな!」

とサイレンが鳴り響いている。

でも、僕は靴屋付近をキョロキョロとそいつを探す。

コマ劇前。

ちょうど階段になっているそこに、そいつはまた膝を抱えて座っていた。

今度は裸足じゃない。

近づいて、

「おい、お前。サオリ。行くとこないなら、ウチくるか?」

サオリは、少し頷いて立ち上がった。

〜つづく〜

※続きは気が向いたときにまた書きます♫
お愉しみに!

ちゃおちゃお〜〜♫

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